[目次]
連鎖群
遺伝子が連鎖しているということは、染色体上に遺伝子が線状に配列しているということです。
連鎖しているグループ別に遺伝子を分けたときにできる遺伝子の集まりを連鎖群といいます。1 本の染色体は 1 本の DNA からできていいます。なので、連鎖群は DNA の直鎖構造に対応していると考えることができます。1 つの連鎖群は、同一の染色体上にある遺伝子の集まりでもあるります。なので、連鎖群の数は、その生物の染色体数 (2 n) の半数 (n) に等しいと言えます。したがって、逆に染色体数から連鎖群の数を決めることができます。たとえば, 工ンドウでは 7 ( 2n = 14 )、イネでは 12 ( 2n = 24 )、パンコムギでは 21 ( 2n = 42 ) の連鎖群が見つかっています。
工ンドウでは、メンデルが調べた 7 つの形質を支配する遺伝子は、5つの連鎖群に分けられています。
豆の形とさやの色の 2 つの遺伝子は同一連鎖群です。また、さやの形と草たけに関する遺伝子も同じ連鎖群で、これらの遺伝子の組換え価は 13 %でした。ということは、もしメンデルがこの2つの形質に注目して二遺伝子交雑実験を行っていたら、その解釈にとまどったかもしれませんね。
地図距離
個々の染色体には多数の遺伝子が乗っています。各遺伝子は染色体上に特定の座をもって位置づけられています。染色体上において、ある遺伝子が他の遺伝子とどのくらい接近しているかをはかる尺度として、組換え価は非常に有効です。
連鎖現象が最初に明らかになったのは、べイトソンとパネットによる、スイートピーの花の色 Bと花粉の形 L に関する実験でした。この実験では、検定交雑の結果、元の親と同じ表現型である非組換え型と、新しく生した非親型である組換え型の比は 7 : 1でした。すなわち、87.5 % は非組換え型、12.5 % は組換え型になります。組換え型のパーセントを、染色体上の遺伝子座間の距離の推定値として定義します。1 % の組換えに相当する単位を、1 地図単位として表し、これを 1 センチモルガン(cM) とよびます。先ほどの B と L の地図距離は、12.5 cM ということにります。ただし、この単位はあくまで相対的な距離で、物理的な距離として特に意味があるものではありません。
ニ点交雑
連鎖地図を作製するには、目的とする遺伝子座において、表現型の異なる 2 つ以上の型が存在しなければなりません。正常型または野生型遺伝子に対して、他のものは突然変異遺伝子と呼ばれます。突然変異型の個体は、注意深い観察によって自然集団の中から見つけ出すか、X 線や化学物質の処理によって人工的に誘発することができます。両性雑種において、2 つの突然変異遺伝子が互いに反対側にあるとき (野生型遺伝子も同様です)、 2 つの対立遺伝子の位置関係はトランスの位置にあると言います。一方の染色体に両方の遺伝子座の突然変異遺伝子があって、他方の染色体に両方の野生型遺伝子がある場合にはシスとよびます。トランスの代わりに相反、シスの代わりに相引という言葉も使われます。
2 つの遺伝子座を含む交雑は、二点交雑とよばれ、染色上での遺伝子の距離や順序を調べるのに有力な手段です。連鎖していると予想される 2 組の突然変異系統を交雑して得られた両性雑種では、突然変異に関してトランスの位置関係で、表現型は野生型になります。ただしこの場合、突然変異型が野生型に封して劣性でなければいけません。次に、劣性ホモの個体で検定交雑すれば、組換え型配偶子を求めることができます。このようにして、2 組の遺伝子について互いの距離を調べることができます。二点交雑では、二重乗換えについては検出できません。そのため、その分のひずみが生じますが、距離が小さい場合 ( 5cM 以下) は無視してもかまわないことになっています。
下図は、トウモロコシの第 1 染色体の 4 つの遺伝子について、P 遺伝子からの地図距離と二点交雑による組換え価の関係を示すものです。
(画像出典: 福井・向井・佐藤『植物の遺伝と育種 第2版』(朝倉書店、2013)
2 つの遺伝子座の地図距離が 50 cM 以上になっても、実際の組換え価は 50 %を超えることはありません。1 本の染色体上に存在する、多数の遺伝子の地図をつくるためには、二重乗換えが無視できるくらいの短い領域に区切り、各々について地図をつくったうえで、全体をつないでいく方法が良いとされています。かなり離れた遺伝子間の地図をつくらなければならないときは地図関数 (D. コンサビ) によって組換え価を補正して地図距離が求められます。
三点交雑
互いに連鎖関係にある 3 対の遺伝子についての雑種を用いた分析は、三点交雑といわれます。三点交雑は、3 遺伝子座について、より詳しい情報を提供します。
A、B、C の 3 対の遺伝子座について、シス型の三性雑種に三重劣性の個体で検定交雑したところ下表のような結果を得たとします。
最初の 2つの表現型の組は、乗換えをおこさなかった配偶子由来のもので、配偶子の遺伝子型は ABC か,あるいは abc のどちらかです。次の 2 つの表現型の組は、AB 間で乗換えが起こった結果生じた配偶子を含むもので、全体の18 %を占めます。同様に、次の 2 つの組は BC 間で乗換えが起こり、8 %を占めます。最後の 2 つの表現型の組は、全体の 2 %を占め、二重乗換え、すなわちみ AB 間および BC 間の両方で乗換えがおこった結果です。AB 間の組換え価は 18 %ですが、この値は実際の組換え価よりも二重乗換えの分だけ小さくなります。したがって、実際の AB 間の組換え価は 18 + 2 = 20 (%) です。すなわち、AB 間の距離は 20 cM であると推定できます。同様に、 BC 間の距離は 8+2 = 10 cM になりますね。これらの遺伝子についての地図は下図の通り。
三点交雑実験では、1 回の実験で二点交雑実験 3 回分の情報が得られます。さらに、二重乗換えを検出できるので精度も良いと言えます。一般には二重乗換えはきわめてまれでです。1 つの乗換えがおこると、別の乗換えがおこる確率は減少する傾向があって、これをキアズマ干渉といいます。