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フェミニズムな人にもそうじゃない人にもオススメな、すっきり整理されて読みやすい良書: 山口真由『世界一やさしいフェミニズム入門』

この本はオススメですね。

オーディオブックで聴いたので、参考文献一覧を手に入れられなかったのは残念ですが。

さて、フェミニズムの入門書は、

  • その時代時代にジェンダー諸問題にどう対処するか、時事的な性格
  • 著者の個人体験談

が多い印象がありました。ではその、現代的なフェミニズム運動へ影響を与えた歴史的経緯は何か? ということを求めようとすると、ちょっとした専門書を当たらないといけなかった気がします。

本書は、まさにフェミニズムの歴史を概観する、ということで、現代的なフェミニズムの諸問題の歴史的経緯を、その源流から整理していて、しかも読みやすい。

私は勝手に、フェミニズムボーヴォワールから始まったと思い込んでいましたが、本書はフランス革命から始まります。フランス革命では人間の自由が求められた。しかしその人間は男性に限定された。そんなのはおかしい! と声を上げた女性が、フランス革命当時から存在していたのです!

また、フェミニズムといっても一枚岩ではないのだな、フェミニズム内部でも対立はあるのだな、というのも歴史的に説明されていて、納得できましたね。

私も疑問に思ってまして、前から。フェミニズムは自己矛盾を抱えていて、それをどううまく説明できるのだろうか、と思ってたのですが、どんな自己矛盾なのかというと、例えば男性成人向け作品への出演と、搾取ですね。

女性が、自分らしく生きていく・伝統的価値観を乗り越える、といった場合、露出の多いファッションだったり、成人向け作品に出演したりという実行をするのは、自分らしさの発現であって、それこそ性差の解放なのだ、みたいなね、そういう考え方もあると思います。フェミニズムには。

一方で、自身の選択で成人向け作品に出演したというけれども、それは、簡単に言ったら「騙されている」わけで、「自身の選択だと思い込まされている」のが事実。仕組みとしては男性による女性への構造的な搾取であって、この構造に気付けていないうちは、本当の意味での選択ではない、と。自分の着たい服を着る、といって露出の多いファッションをするのも、拡大された構造的搾取と見做せなくもない。

という、要するに、私なりまとめると、フェミニズムは理論上、成人向け作品に出演するのを否定派 vs 容認派、相反する見解が自然発生してしまうけれども、この自己矛盾をどう解消するのか?

こういった問題が、私の気になる点だったのですが、フェミニズムに対して。

この問題についても、歴史的経緯が記述されていまして、アメリカではこの問題に関して、否定派と容認派でフェミニストたちの間で対立が起こったとかですね。そういうことも書かれているんですね。

私の思っていた問題点 (フェミニズムの自己矛盾) は、しっかり歴史的にフェミニズム内部でも議論されてきていた、ということが勉強になりました。

さらに重要なのは、アメリカで、成人向け作品容認派 vs 否認派の対立がフェミニズム内部でも起きた際、否認派は保守と手を組んだ、ということですね。

私はなんとなくの先入観で、フェミニズムは左派の思想だと勝手に思い込んでいたのですが、議論のテーマによっては右派と手を組むこともある、と。

確かに、女性の構造的搾取の問題化は、その着想をマルクスに求めたので、フェミニズムは左派と親和性があります。ただし、取り組むべき社会問題によっては、右派との親和性が高い。

これをどう捉えるか。

人によっては。一貫性がないとか、信用がないとか、そういうふうに捉えるでしょう。

しかし、私が思うに、右派・左派という立場を最初にガッチガチに固めておいて、解決するべき社会問題に対して立場が違うからと消極的な姿勢になるよりも、解決するべき社会問題に応じて右派・左派関係なく柔軟に立場を変えていく方が、よっぽど社会問題に対する姿勢としては真摯なのでは? という意見もあるでしょう。

そう考えると、とんでもなく保守的な発言をする女性国会議員についても、理解できなくもない、と思えるようになります。もちろん、LGBTQ への差別発言は許されませんが。

ある社会問題への対応策が論理的自己矛盾を抱えていた際、その対応策を丸ごと否定するのか、それとも柔軟に運用するのか。男は丸ごと否定しがちですが、柔軟に運用した方が社会が成熟へ向かうこともあるのではなうでしょうか。

私は男でかつその出自上、おそらく一生フェミニズムの考えを芯から理解することはないでしょう。もしかすると私の出自は、フェミニズムのいちばんの敵かもしれません。

そんな私でも、フェミニズムという思想を分かった気にさせてもらえるのが『世界一やさしいフェミニズム入門』。著者は山口真由です。

え!?!???

山口真由!?!??

いまだに信じられずになんだったらいまだに疑っているのですが、これ書いたの本当に山口真由ですか!?

山口真由というと、私の先入観では、まずは「七回読み」勉強法。ホンモノか眉唾か不明なナゾ勉強法で名を馳せた後、そしていつの間にかテレビのコメンテーター。実際に彼女がテレビで発言しているところを見たことはないのですが、元官僚という肩書きから、なんとなく保守的な意見の人なんだろうな、と勝手に思い込んでいました。すごくマイルドにした三原じゅん子・杉田美脈、みたいな。言い過ぎか?

と思ってネットを検索したら、なかなかきな臭いゴシップ記事がちょくちょく出てきました。

保守とは関係ないですが、

とか。

くわばらくわばら。

しかし本書で山口は、マルクスの理論を非常に簡潔にまとめ、上野千鶴子の理論的支柱として紹介。これが右派の書いた本であれば、マルクスや上野を紹介したうえで嫌味のひとつふたつを書きつらねるところですが、本書にはそれはナシ。かと言って左派にとんでもなく肩入れしているといった様子も読み取れず、左派であれ右派であれ、女性の社会的立場向上のために良いところを参照にしていく、といったところでしょうか。

いやマジで同じ人ですか!? 皇室発言でプチ炎上した人と本書を書いた人!??

ここ追及始めたら収拾つかなくなるので、今回はヤメますが、週刊誌での発言の切り取りの週間誌のウェブ記事から見える人柄と、本人が一生懸命書いた本から見える人柄、どちらを信用するか、ていう話だと思います。

上野にしろ左派的な立場をとりながらタワマン住んで外車に乗っているところを糾弾されているのですが、東大出て元官僚で元弁護士でという経歴の山口が、どこまで社会的弱者の気持ちを理解できるのか? という非難は最後まで残るのでしょう。しかし変に立場間の対立を煽るのでもなく、フェミニズムの歴史をコンパクトにまとめ、女性の社会的立場向上を考える一助になるような良書 = 本書を世に出した著者には敬服です。

読みましょう。これ

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