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育種目標 (育種学を学ぶためのノート (3))

本記事は, 植物育種学を学ぶために作成したノートを, ブログ用に編集したものです.

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育種目標

育種目標は, 生産性, 品質, 適応性, 耐性に大別できる.

生産性

多収性

  • 一般に, 物質生産能力と, その収穫部位への分配率 (収穫指数) が収量を決定する
  • 光合成能力を規定するのは, 葉身の厚さおよび葉肉細胞中の葉緑体の量である
  • 葉身の厚さや葉緑体の量は, チッソ肥料の施肥量によって大幅に変化し, 一定の限界までは窒素肥料を多く与えた方が多収である
  • しかし窒素肥料だけにたよった多収性には問題があり (葉面積が過大になると過繁茂によって倒伏が起こりやすい. 葉身中の窒素濃度が高まると耐虫性や耐病性が低下する など), 肥料反応性を考慮しなければならない
  • 多肥多収型の品種では, 在来品種に比べて増肥分に対する増収率が高く, また施肥量の限界値が高い. このような多肥多収型の草型は, 主として耐倒伏性と収穫指数の向上によって実現している.

耐肥性

  • 単位面積あたりの収量を高めるには, 施肥量を増やさなければならない
  • しかし, 農作物の収量は施肥量が増加するにしたがって無限に増加するわけではない
  • 施肥量には最適値があり, これを超えると過繁茂による光の利用効率の低下, 倒伏による受光体勢の破壊などによって収量が減少する

受光体勢

  • 群落としての光合成能力を高めるためには, 葉面積を拡大するとともに, 葉身をたてて光がすべての葉身へまんべんなく当たるようにしなければならない
  • 群落としての光の受け方を受光体勢という. 吸光係数 K によって量的に表示できる
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  • LAI は葉面積指数, I0は群落上部の光の強度, I は群落基部の光の強度を示す
  • したがって吸光係数とは, 光の透過率を葉面積数で標準化した値だということが分かる

葉面積指数についての参考 URL

耐倒伏性

  • 子実植物は, バイオマスが拡大しても倒伏が起こって受光体勢が破壊され, 多収に結びつかない
  • 植物体を倒伏させる力は地上部の曲げモーメントに比例し, 倒伏を防ぐ力は茎 ( 稈 ) の強度 ( 挫折抵抗など ) に比例するから, 耐倒伏性を向上するには短稈化と強稈化の 2 つの方法がある
  • たとえばイネの場合, 半矮性遺伝子は sd1-d 遺伝子 ( 低脚烏尖 ) で, これによってイネの短稈化, 強稈化 ( かん壁を厚くする ) が実現される

品質

  • 生産物の品質は収量と並んで重要な特性である

コメ

収量より品質が優先される場合

  • カロリー源となる主食用作物の場合は収量が優先する
  • 対して, タバコやビールオオムギなどの加工用原料作物の場合は, 品質や加工歩留まりが重要である
  • また, ラン, メロンに代表にされる観賞用植物や高級果物・野菜類では, 収量よりも品質が優先する

耐性と抵抗性

  • 植物はその全生育期間において何らかの要因によるストレスを受けている
  • これらのストレスに対して, 抵抗性品種の育成による対策は不可欠である
  • 耐病性と病害抵抗性がほとんど同義語として用いられているように, 抵抗性と耐性もしばしば混同されている
  • 抵抗性とは, 真正抵抗性遺伝子による耐病性のように, 植物の側からストレス要因に働きかけてその侵入や進展を抑制するような場合を指す
  • 抵抗性の対義語は, 罹病性である
  • 耐性とは, 薬剤などの化学物質や, 低温, 乾燥などの物理的要因による不良条件にさらされながらもそれに耐える特性を言う

生物的ストレス

耐病性

  • 病原体にはバクテリア, 菌, ウィルスなどさまざまな生物がある
  • 土壌や種子から伝染する場合や, 昆虫などによって媒介される場合では耐病性のメカニズムが異なる. なので, 耐病性の育種においては病原体の種類によってそれぞれの対応が必要である
  • 耐病性育種において最も注意を必要とするのは, 病原体にレース race が分化している場合には, 抵抗性遺伝子と病原性遺伝子の組み合わせによって抵抗性が逆転することである
gene for gene 説
  • フロー (Flour 1956) は, アマのサビ病において, 品種の抵抗性と菌の病原性遺伝子の組み合わせによって生じる抵抗性と感受性の変異を説明するために gene for gene 説を提唱した
  • すなわち, 品種と菌系の組み合わせにおいて, 抵抗性遺伝子と非病原性遺伝子の組み合わせでは抵抗性 resistant になり, それ以外の組み合わせでは罹病性 susceptible になる
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  • したがって, 2 つのレース, X, Y が存在する場合, それぞれに対する抵抗性遺伝子が関与する 2 因子性雑種の F2 では, (両レースに抵抗性 9) : (X に抵抗性 3): (Y に抵抗性 3): (両レースに感受性 1)の分離が期待される
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  • gene for gene の対応によるレースの分化は, 各種のサビ病, うどんこ病などの活性寄生性菌で認められていて, イネいもち病でも, レースの分化とそれに対応した多数の抵抗性主働遺伝子が報告されている 
真性抵抗性と圃場抵抗性
  • 病原菌の菌系と植物 ( 品種 ) の抵抗性遺伝子の間に gene for gene の対応のある主働遺伝子に支配される抵抗性を, 真性抵抗性という.
  • 病原菌の菌系と植物 ( 品種 ) の抵抗性遺伝子の間に真性抵抗性のような gene for gene の対応関係がない抵抗性を圃場抵抗性という
  • 圃場抵抗性は個々の遺伝子の作用が多い量的遺伝子 ( 群 ) に支配される場合が多い
  • 圃場抵抗性は, 真性抵抗性と違い, 菌系の交代による抵抗性の崩壊 ( 逆転 ) 現象がない
  • 圃場抵抗性は, どの菌系にもある程度の抵抗性を示す.
野菜の耐病性
  • 病気の種類が多い野菜などでは, 多くの病害の多数のレースに対する抵抗性遺伝子を集積しなければならない
  • 抵抗性遺伝子の集積は, 通常の育種方法では大きな困難がともなう
  • しかし抵抗性遺伝子の多くが優性なので F1 雑種を利用すると多数の抵抗性遺伝子集積することが容易である
  • たとえば, 両親品種から 3 個ずつの抵抗性同型接合体は, F2 では 1/4^6 = 0.02%, 充分に自殖を繰り返した後代でも 1/2^6 = 1.6%しか出現しない
  • しかし, F1 雑種では 6 対の優性遺伝子のすべてが発現する

耐虫性

  • 殺虫剤のない時代には, イナゴ, バッタ, ウンカ, メイチュウなどの害虫が稲作の大敵だった
  • 害虫の種類は, 鱗翅目の幼虫, テントウムシ, アブラムシなど極めて多い.
害虫抵抗性の主働遺伝子
  • イネのトビイロウンカ抵抗性, ソルガムのアブラムシ抵抗性などに主働遺伝子が見出されている
  • 虫の寄生性を異にするバイオタイプの分化が知られているので, 耐病性におけるレース分化と同様, バイオタイプの変化による抵抗性の崩壊に注意しなければならない
  • 害虫は自ら移動することができ, 寄主の抵抗性も害虫を殺すような積極的なメカニズムではないので, 耐虫性育種だけでは害虫を制御しきれない

非生物的ストレス

耐冷・耐凍性

  • 環境要因のうち, 温度と水条件は植物の生育に特に重要な影響をもっている
  • 高温に適応した作物を寒冷な地域に栽培する場合には, 低温障害に対する耐性が要求される
栄養成長期間
  • 栄養成長期間の低温耐性は主として成長速度の差として現れる
  • イネでは 5 ℃程度の低温によって葉緑体が破壊される低温クロロシスが知られている
生殖成長期間 (小胞子形成から受精まで) 
  • 植物が環境条件に特に敏感で, この時期の不良環境は各種の作物で配偶子, 特に花粉の不稔と受精障害を引き起こす
生殖成長期間 cf. イネ (1) 幼穂形成から穂孕み期
  • 幼穂形成から受精までの期間に 15 ℃ 以下の低温が数日続くと, 極端に稔性が低下する場合がある
  • 穂孕み期, 特に出穂 10 〜 15 日前の減数分裂期・花粉四分子期では, 日平均気温 18 ℃ 以下 ( 夜温 12 ℃以下) の日が 3 日以上続くと, 葯の矮小化・白化が起こり, 充実不良花粉 (発芽不良) が増加するか不受精穎花 (しいな) が増加する
  • 耐冷性は, 複数の遺伝子に支配されているとみられている
  • 耐冷性の機構 (1) 葯壁 (特にタペート組織) や花粉そのものの生理的な側面
  • 耐冷性の機構 (2) 低温時においては気温よりも水温が高いために短稈で穂が水面下にある方が低温の被害を回避できるという形態的な側面
  • 参考: タペート組織 
生殖成長期間 cf. イネ (2) 開花期 (教科書下線+板書)
  • 最高気温 20℃ を下回るような低温の数日間は, 開花できない (花粉の劣化) . 葯の裂開不良, 花粉管の発芽・伸長の不良により, 不受精穎花が増加する
  • 低温障害の機構 (1) 葯の裂開が妨げられるととによって花粉が飛散せずに不稔化
  • 低温障害の機構 (2) 花粉の発芽および花粉管の伸長が抑制されて不稔化する
生殖成長期間 cf. イネ (4) 登熟期
  • 登熟期における低温障害は, 低温による光合成および転流の阻害による登熟不良として現れる
二年生作物, 永年性牧草における耐凍性 (教科書下線)
  • 二年生作物, 永年性牧草の越冬時に問題になる氷点下以下の低温に対する耐性 (耐凍性) は, 秋口の低温に反応して細胞質中の可溶性糖類が増加して氷点が下がるなどの機構が関与する

耐雪性

  • 積雪地帯で栽培される秋播きムギ類やナタネなどの越冬二年生作物では, 雪に覆われた状態で越冬することにともない, 耐雪性が要求される
  • 雪に覆われた地面の温度が氷点を大きく下回ることはない
  • 耐雪性の主な要因は耐凍性ではなく, 雪によって遮光されることによる植物体の消耗, それにともなう雪腐病菌などの侵入, 春咲きの融雪水による湿害などに対する耐性だと推測されている

耐乾性

  • 植物のさまざまな代謝は水を媒介として営まれている
  • 乾燥地および反乾燥地では, 植物の生育に対して水が最大の制限要因になっている

耐湿性

  • 水ストレスは多くの場合, 水不足として現れるが, 降雨の多い地域や土壌が湛水するような場合は, 根圏が嫌気的な条件におかれると根の呼吸が阻害され, また, 有機酸や有害イオンが根圏に増加してさまざまな障害が発生する
  • ムギ類 (コムギ, オオムギ, ライ麦, エンバク) のなかで 特にオオムギは湿害に弱い

耐塩性

  • この場合の塩類とは, 土壌中のカチオン (Na^+, Ca^2+, Mg^2+, K^+ など) を指す
  • 耐塩性は種によって異なり, ワタやビートなどは耐塩性が強い
  • 耐塩性は, 高い浸透圧に対抗して水を吸収する側面と, ナトリウムイオンなどの有害なイオンに対する耐性の側面がある
  • 半乾燥地のほとんどは塩類化の問題を抱えていて, 施肥や灌漑にともなって塩類化はますます深刻化している. 耐塩性育種は世界的に重要な課題である
  • 塩類ストレスは半乾燥地や塩類土壌で深刻な障害を与えている
  • 日本でも, ビニールハウスなどの施設園芸において塩類が表土に集積し, 連作障害を与えるので, 圃場に潅水して溶脱する必要がある

耐酸性・耐アルカリ性

酸性土壌 
  • 火山灰土壌や泥炭土壌では, 土壌が酸性でリン酸が吸着されたりアルミニウムイオンの害が現れたりする場合が多い
  • 日本には酸性土壌が多い
  • 酸性土壌は, 石灰を施与することによってあるていど矯正できる
  • 作物の種 (species)により, あるいは品種により耐酸性が異なるので, 育種的対応が可能である
  • 耐酸性は可溶化したアルミニウムや鉄に対する耐性によって支配される場合が多い
アルカリ性土壌
  • 半乾燥地帯の塩類土壌にはアルカリ性土壌が多い
  • アルカリ性土壌の pH を矯正することは難しい. したがって, 育種的対応が望まれる
  • アルカリ耐性には, 遺伝的変異が認められている
  • アルカリ性土壌では鉄欠乏が起こりやすい

薬剤・重金属・大気汚染物質耐性

  • 植物に対する毒性をもっている除草剤はもちろん, 殺菌剤や殺虫剤によっても作物に薬害が起こる場合があり, これらの農薬を安心して使うためには薬剤に対する耐性を付与しておかなければならない
  • 鉱山や製錬所, 化学工場の周辺やその川下などに, 主として人為的な汚染によって Cu, Cd, Ni, Mg などが集積し, それによって作物の生育が阻害される場合がある. 植物の種間や品種間でこれらの重金属に対する耐性に遺伝変異が存在することが知られている

 

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