コムギの起源については、19世紀末から研究が始まりました。1944年には、木原均らがパンコムギの祖先を発見しました。
ここでは、小麦の起源について説明します。
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トリティクム属とエギプロス属
コムギやその野生近縁種はコムギ (トリティクム) 属とエギロプス属の両方にまたがっています。コムギ属とエギロプス属は交雑が互いに可能で、遺伝的に近縁なので、トリティクム属にひとまとめにする分類方法もあります。
コムギの倍数体
コムギは植物のなかでも最も細胞遺伝学的研究が進んでいます。2、4、6 の 3 つの倍数性が存在し、一粒系小麦 (二倍体)、二粒系小麦 (四倍体)、チモフェービ系コムギ (四倍体)、普通系コムギ (六倍体) およびジュコブスキー小麦 (六倍体) の5種類にまとめられています。
コムギの進化
コムギはどのように進化してきたのでしょうか。染色体構成から、一粒系 → 二粒系 → 普通系順序で進化してきた事は容易に想像できます。
最近の研究成果から、二粒系コムギのパレスチナコムギやアルメニアコムギは、野生の一粒系コムギ (Triticum urartu) とエギプロス属の二倍種の1つであるクザビコムギ (Aegilops speltoides) が自然交雑して、その後、染色体が倍加してできた異質四倍体に由来すると考えられています。
このときの倍数体形成では、細胞質ゲノムの研究から、クサビコムギが母親、一粒系コムギが花粉親であったことが明らかにされました。しかも、パレスチナコムギとアルメニアコムギでは、細胞質ゲノムが互いに異なるクサビコムギを母親にしているので、それぞれ別の細胞質ゲノムを持つことになります。
野生種と栽培種
コムギの野生種と栽培種のの違いはどこにあるのでしょうか。
野生種では穂が成熟すると、小穂ごと折れて種子がバラバラになって落下し、発芽の時期がまちまちです。対して栽培種では穂が熟しても穂が折れず、収穫まで種子が落ちないし、また種子はたやすく剥くことができて、発芽の時期も均一です。
野生種
野生種一粒系コムギや野生種二粒系コムギ (T. dicoccoides) は、1 万 2000 年ほど前に利用されていたという証拠が、西アジアの遺跡から見つかっています。
栽培種
栽培一粒系コムギや栽培二粒系コムギ (T. dicoccum) はすくなくとも 9000 年前には出現していました。つまり、その頃までに突然変異によって生じた栽培種を、人間が農耕の発達とともに西アジアからヨーロッパへ広めていったと考えられています。
パスタやスパゲティーに用いるマカロニコムギ (T. durum) は、パレスチナコムギが栽培がされたものです。栽培二粒系コムギは、5000 年くらい前にはヨーロッパ全域で栽培されていたようです。
チモフェービコムギのほうは、アルメニアコムコムギが栽培がされたものですが、現在ではトランスコーカサスの一部の地域でのみ栽培されています。
バビロフによる栽培植物の 8 大原生中心地
1. 中国 (中央および西部tの山岳地帯とその周辺の低地): ダイズ、ソバ、モモ、アズキ
2a. インド (北西インド、パンジャブを除く地域。ただしアッサムとビルマは含む): イネ、ナス、キュウリ、ゴマ、サトイモ、マンゴー
2b. インド-マレー (マレー半島、ジャワ、ボルネオ、スマトラ、フィリピンおよびインドシナ): バナナ、サトウキビ、ココヤシ、パンノキ
3. 中央アジア (パンジャブ、カシミールを含む北西インド、アフガニスタン、タジキスタンとウズベキスタン、および天山山脈の西部): ソラマメ、タマネギ、リンゴ、ブドウ、ニンニク
4. 中近東 (小アジア、トランスコーカサス、イラン及びカスピ海東方山岳地帯): オオムギ、コムギ、エンバク、ニンジン
5. 地中海地域: エンドウ、レタス、アスパラガス、キャベツ、オリーブ
6. アビシニア (エリトリア高原を含む): オクラ、コーヒー、アマ
7. 南部メキシコ・中米 (西インド諸島を含む): トウモロコシ、サツマイモ、インゲンマメ
8a. 南米 (ペルー、エクアドル、ボリビア): ジャガイモ、ワタ、トマト、ラッカセイ、タバコ
8b. チリのチロエ島: イチゴ
8c. ブラジル-パラグアイ: パイナップル
普通系コムギ
普通系コムギは、栽培二粒系コムギとエギロプス属の近縁野生種であるタルホコムギとの自然交雑後、その染色体を倍加することによって生じたと結論されています。事実、樽生小麦は、栽培2粒型小麦畑の雑草でもありました。
普通系コムギは、7000 年前の遺跡から出土しています。ですので普通系コムギの起源は、今から7000 〜 8000 年ほど前に求めることができます。場所は、カスピ海沿岸の西北イラン付近であると推定されています。