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植物におけるシス因子とトランス因子

遺伝子がいつ、どこでどれだけ転写されるかに関する情報は、個々の遺伝子の制御領域に特定の塩基配列として書き込まれています。転写を制御する DNA 上の配列は、シス配列と呼ばれています。また、個々の遺伝子のシス配列と結合して、転写をいつ、どこで開始するのかといった調節に携わる因子を転写調節因子 (トランス因子) と言います。

[目次]

 

シス因子

シス配列は遺伝子の 5’ 上流領域に位置することが多いのですが、イントロンや遺伝子の 3’ 下流領域に存在する場合もあります。各遺伝子の転写は通常、組織特異性に関するシス配列、時期に関するシス配列、刺激に応答するシス配列、転写量に影響を与えるシス配列など、複数のシス配列によって複合的に制御されています。すなわち、細胞の種類、発生のステージ、細胞が置かれている環境などの情報が統合された結果、遺伝子の転写量が決まるのです。遺伝子の構造領域の近傍で転写を制御するシス配列とは異なり、50 kb にわたるヒトのβグロビン遺伝子のクラスター全体に影響を与える遺伝子座制御領域 (locus control region) や、エンハンサーの影響が周囲の他の遺伝子へ与えないように遮断する機能を持ったインシュレーターと呼ばれる領域も存在します。これらのシス因子は、クロマチンの構造と関連していると考えられています。

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転写調節因子 (トランス因子)

転写調節因子は、個々の遺伝子のシス配列と結合して、転写をいつ、どこで開始するのかといった調節に携わります。転写調節因子はその構造の中にDNAと直接結合する領域、他の転写因子と相互作用し転写の活性化あるいは抑制に関わる領域を持ちます。これらの領域には真核生物に共通の特徴ある構造があって、転写調節因子はそのモチーフをもとに分類されます。ジンクフィンガー、ホメオドメイン、ロイシンジッパーなどは広く真核生物に分布していていて、よく知られていますが、植物において特徴のある構造について下の表にまとめました。

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MYB ドメインは動物のガン遺伝子産物 v-Myb 中に見出された構造で、DNA に直接結合する領域であり、トリプトファンが 3 個等間隔に並ぶのが特徴です。哺乳類では MYB ドメインを持つ転写因子は少数であるのに対し、植物では非常に大きなファミリーを形成しています。トウモロコシのアントシアニン合成制御を行う C1 と P1、シロイヌナズナの網状突起 (trichome) の形成に関与する GL1 、ABA で誘導される ATMYB2 などがこの構造を持っています。 C1 と B1 は、ガン遺伝子の 1 つである Myb と相同性のある R や B との相互作用で転写を制御しています。

MADS box の名前は酵母MCM1シロイヌナズナAGAMOUSキンギョソウDEFICIENCE、ヒトの SRF に共通して見られることに由来します。シロイヌナズナのゲノムのなかには 30 以上の MADS box を持つ遺伝子が存在します。シロイヌナズナキンギョソウの花のホメオティック遺伝子は、APETALA2 を除いてすべて MADS box の構造を持ちます。MADS box を持つ花のホメオティック遺伝子の産物には、タンパク質間の相互作用に関与する K 領域と呼ばれるケラチンのコイルドコイル (coiled-coil) 領域に似た構造が共通して存在します。MADS box は 56 アミノ酸からなる領域で、DNA との結合と二量体形成に関係しています。

AP2/ERF モチーフは、エチレン応答に関するシス配列に結合するタンパク質 ERF に見出された DNA 結合構造です。この DNA 結合モチーフは、花のホメオティック遺伝子 APETALA2 や乾燥応答の転写因子 DREB などにも存在します。その後ゲノム解析から、この構造を持つ遺伝子が多数発見され、大きな遺伝子ファミリーを形成していることがわかりました。

NACドメインは、茎頂分裂組織の形成、維持に関与する NAM や CUC2 などに保存された領域です。シロイヌナズナには約 100 個の NAC タンパク質が存在します。木質細胞の分化に関与する VND6、VND7、NST1、NST3 も NAC 型転写因子です。

ARFは、オーキシン応答の DNA シス配列に二量体として結合する転写因子です。このファミリーは、N末端に B3 ドメインと呼ばれる植物固有の DNA 結合モチーフを、C 末端には二量体形ドメインを持ちます。オーキシン応答には、この二量体形成ドメインを介した抑制因子 AUX/IAA との相互作用が重要です。

ジンクフィンガー型転写因子は、すべての真核生物に存在します。しかし、Zn2+を配位するシステイン (C) とヒスチジン (H) の配置によりいくつかのタイプに分類されます。WRKY は、W-box と呼ばれる DNA シス配列に結合する転写因子として同定されました。このファミリーは C2H2 または C2HC のジンクフィンガーモチーフのほかに WRKY ドメインを持ち、病害抵抗性に関与する遺伝子などを含む植物に固有のジンクフィンガー型転写因子です。植物固有のジンクフィンガー型転写因子としては他に、C4 タイプのDOF、YABBY、CONSTANS、LBD があります。

​GRAS ファミリーも植物固有の転写因子とされますが、このファミリーは明確な DNA 結合領域を持っていなくて、他の DNA 結合型転写因子と複合体を形成して機能すると考えられています。ジベレリン信号伝達の抑制因子 DELA がこのファミリーに属しています。

動物には存在しますが、植物には存在しない転写因子もあります。ガン抑制遺伝子のうち RB (right border) は植物にもホモローグが存在しますが、最も重要とされる p53 は存在しません。代謝や寿命の抑制に関与するフォークヘッド型転写因子や炎症反応の制御に関与する NF-κB なども植物には存在しません。動植物固有の生理機能の制御には、動植物それぞれに特徴的な転写因子が関与する傾向があると思われます。

転写調節因子間の相互作用

転写調節因子は、内的・外的な刺激により活性化され、標的遺伝子の転写を制御します。核への移行、リン酸化などの修飾、他の転写因子との相互作用、分解などのさまざまなレベルでの調節機構の存在が知られています。相互作用する相手が異なると、標的配列に対する親和性や機能が変化する場合があります。例えば、ショウジョウバエのホメオティック遺伝子である UbxAnp の産物は、in vitro では同じ DNA 配列に結合しますが、in vivo では全く別の体節構造を誘導します。Ubx は Exd と相互作用し、形態形成に重要な役割を果たす大遺伝子を活性しますが、Anp にはそのような機能はありません。植物固有の転写因子 ARF は IAA と結合すると機能が抑制されます。bZIP や bHLH 型転写因子はヘテロ二量体を形成し、組み合わせによって機能が変化することがあります。

 


 

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