真核生物において、遺伝物質である DNA のほとんどは、細胞中の核内に存在します。
細胞分裂の際に、各構造はいったん失われ、内容物の何本かの DNA は、それぞれその数だけ、染色体というひも状 (または棒状) の構造に形を変えます。
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染色体 DNA
染色体という名称は、ひも状の構造体が塩基性色素でよく染まることに由来します。現在では、細胞内に存在する DNA のうち、核内にある DNA を、オルガネラ (葉緑体およびミトコンドリア) DNA と区別して染色体 DNA と言います。染色体 DNAは、ヒストンタンパク質や染色体構造タンパク質などを含んでいます。
ウイルスや細菌などの原核生物も、DNA 分子をもっています。しかし、そのあり方は真核生物とは異なります。染色体 DNA に含まれているようなタンパク質はなく、核様体といって、DNAそのもので存在しています。
植物をはじめ真核生物の染色体DNAは直線状です。これに対し、原核生物の核様体 DNA は一般に環状です。
植物における染色体 DNA には固有の長さがあって、ゲノム当りの本数も決まっています。DNA が複製される S 期の前の各染色体には、染色体 DNA が 1 本だけ含れます。たとえばコムギでは、平均 11.5 cm です。意外に長いですよね。
テロメア
さて、非常に長い DNA の糸は、どのようにして小さな棒状の染色体に収まるのでしょうか。真核生物の直線状 DNA の末端は、テロメアという特殊な構造になっています。テロメアの塩基配列を調べると、グアニン塩基の豊富な 10 個以下の短い配列がいくつも繰り返していて、原生動物・菌類・植物・高等動物を問わず互いに似ています。テロメアの構造は、高等植物では、シロイヌナズナで初めて明らかにされ、TTTAGGG の 7 塩基が反復していました。これまで調べられた高等植物のテロメア は、基本的にはすべてこの配列でした。テロメア DNA の末端は切断された状態ではなく、ヘアピンのような構造をしてます。
テロメアは「命の回数券」
テロメアは、細胞の寿命のカウントダウンを行っている時計にたとえられます。動物・植物を含めて真核生物のテロメア配列は、染色体上の 1 か所当りに 1 万 〜 2 万塩基対の長さがありますが、細胞が分裂するたびに 50 〜 100塩基対ずっ短くなっていくからです。細胞分裂には一定以上の塩基対のテロメアが必要とされています。なので、細胞は約 50 回分裂を繰り返すと増殖を止めてしまいます。テロメアの長さはその細胞の分裂可能回数を決めているということですね。このようなことから、テロメアは「細胞分裂の回数券」あるいは「命の回数券」といわれています。
テロメラーゼ
擦り減ったテロメアを修復することも可能です。動物では生殖細胞や幹細胞でテロメア合成酵素 (テロメラーゼ) の活性が高く、長いテロメアが維持されています。このようなテロメアおよびテロメラーゼを発見しそれらのメカ=ズムをあきらかにしたのは、米国のE. ブラックバーン、C. グライダー、J. ショスタック の3人の科学者です。3 人は、「染色体を保護するテロメアとその維持に関わる酵素テロメラーゼの発見」という研究に対し、2009年のノーベル生理学・ 医学賞が贈られました。
5日に発表された2009年のノーベル医学生理学賞(Nobel Prize for Medicine)は、米カリフォルニア大(University of California)のエリザベス・ブラックバーン(Elizabeth Blackburn)教授、ジョンズ・ホプキンズ大(Johns Hopkins University)のキャロル・グレイダー(Carol W. Greider)教授、ハーバード大(Harvard University)のジャック・ゾスタック(Jack W. Szostak)教授の3氏が受賞したが、受賞理由は「寿命のカギを握るテロメアとテロメラーゼ酵素の仕組みの発見」だった。
テロメアは染色体の末端に付いているキャップのようなもので、らせん状になっている大切な遺伝情報を保護する役目を担っている。
ブラックバーン教授は、テロメアを「靴ひもの先端」に例える。先端のビニール製の止め具がなくなると、ひもの糸がばらばらにほどけてしまうという意味だ
植物におけるテロメア
植物と動物を比べてみると、植物は寿命が長く、木本植物では数百 〜 数千年生きるものもあります。成長した葉や茎の体細胞ではテロメラーゼの活性は低く、休眠芽では活性がみられません。しかし、細胞分裂の盛んな生殖細胞・根端・茎項・花芽・培養細胞ではテロメラーゼの活性が高く、テロメアを修復して細胞分裂が停止しないようにしています。したがって、1 年生といわれるトマトのような植物でも、環境条件を制御するとテロメラーゼの活性が維持され、成長し続けることが知られています。