Xtra etc

日記系雑記ブログ: 農業、データサイエンス、自然

【スポンサーリンク】

遺伝子発現産物の解析

ここでは、遺伝子発現産物の解析について解説します。

[目次]

1. トランスクリプトーム解析

トランスクリプトームとは、特定の条件のもとで組織や細胞における一次転写物である mRNA の全体像を示し、ゲノムの機能面、すなわち遺伝子発現の全体像を表しています。同一個体においては、ゲノムは一般的に同じです。しかし、トランスクリプトームは、組織ごとに異なっていて、細胞外の環境条件に影響されます。トランスクリプトームの研究 (トランスクリプトミクス) は、各種生命活動における代謝経路の多様性の全体像 (メタボローム) すなわち代謝物質の網羅的解析の一部を構成しています。

これまで多くの有用植物のゲノムが解読され、ゲノム配列のデータからトランスクリプトームやメタボロームを利用した包括的な研究が進んでいます。

2. プロテオーム解析

タンパク質は細胞構造や代謝経路の構成要素として生物にとって必須です。プロテオーム解析は、プロテオックスとも呼ばれ、その生物が持つタンパク質の網羅的な研究を意味します。ゲノム全体や遺伝子を網羅的に解析するゲノミクスに対して、ある生物の持つ全タンパク質や特定の時期にある細胞が発現している全タンパク質の全体像の解析です。

プロテオーム解析の目標は、タンパク質の相互作用や異なった組織、時間、環境下におけるタンパク質の発現全体を明らかにすることです。植物ではせいぜい数万個の遺伝子しか知られていません。しかしこれらの遺伝子に由来するタンパク質は数十万個に達すると見積もられています。植物ではシロイヌナズナ、イネ、オオムギなどでプロテオーム解析が進んでいます。

3. 形を作る遺伝子: ABC モデル

メンデルの法則が知られる前の19世紀前半、ドイツの文豪ゲーテが、がく、花びら、おしべ、めしべといった花の構成器官は、葉が変形したものである、と言い残しています。茎のところどころで芽が出て、その先に葉を形成したりするのですが、花をつけるのも同じ場所です。それは、その場所で花を作る遺伝子が働いて、葉になるかもしれなかった部分が、がく、花びら、おしべ、めしべに変化するからです。

この現象は「ABCモデル」で説明されます。

 

www.xtraetc.xyz

 

ABCモデルは、1991年にコーエンとメイロビッツらによって発表されました。彼らが実験材料にしたのはシロイヌナズナでした。花の形態は、がく片4枚、花弁4枚、おしべ 6 本、めしべ1本 (2 心皮) から構成されています。

花がられる茎の先端 (花芽分裂組織) では、円筒状の茎頂において同心円状に下から領域 Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ と区別できます。

f:id:yzxnaga:20200820220823p:plain



​また、花の形をつくるのは、A、B、C の 3 種類の遺伝子で、それらがはたらく組み合わせと順序が決まっています。正常体では、まず領域Ⅰががく片になりますが、そのとき遺伝子 A のみがはたらいています。次の領域Ⅱでは、遺伝子 A と遺伝子 B が共同ではたらいて花弁がつくられます。領域Ⅲでは遺伝子 B と遺伝子 C が共同してはたらいておしべをつくります。領域 Ⅳでは遺伝子 C だけがはたらいてめしべが作られます。つまり、花の 4 つの領域について、3 種類の遺伝子のうち遺伝子A は領域Ⅰ(がく片) と領域Ⅱ(花弁) で、遺伝子 B は領域Ⅱ(花弁) と領域3 (おしべ) で、遺伝子 C は領域Ⅲ (おしべ) と領域Ⅳ (めしべ) で働いているということです。そして、遺伝子 A と遺伝子 C は互いに抑制し合うので、どちらかがはたらかなければもう一方がはたらくことになります。

​このように、それぞれの遺伝子が順序よく正しい組み合わせではたらくことで、葉が花に変化します。しかし、3種類の遺伝子のいずれかに変異が起きると各領域の器官が予定通り形成されなくなります。

例えば突然変異で遺伝子が働くなった場合を考えてみましょう。まず、領域Ⅰでは遺伝子 A が働いてがく片ができます。領域Ⅱでは遺伝子 A と遺伝子 B がはたらいて花弁ができます。そして領域Ⅲは、本来は遺伝子 B と遺伝子 C がはたらいておしべができるところですが、遺伝子 C の代わりに遺伝子 A がはたらくため、おしべが花弁になってしまいます。さらに領域 Ⅳ は本来めしべができる部位ですが、遺伝子 A だけが働いてがく片が作られることになります。結果、領域の外側から、「がく片 + 花弁 + 花弁 + がく片」となって、もともとおしべの部位は多数用意されるため、それら 1 本 1 本が花びらになって花びらの多い華やかに花になるということです。桜などの八重咲きがこの事例ですね。

3 種類の遺伝子がすべて変異して働かなくなれば、すべての領域から葉が形成されると考えられます。このことはシロイヌナズナキンギョソウの実験で証明されています。

 


 

【スポンサーリンク】