高知と農業、あと哲学とか

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春化: ヴァーナリゼーションとは何か

植物が低温によって花成が誘導されることを春化 (vernalization) と言い, 春化を人為的に行うことを春化処理と言います.

春化は 1918 年, ガスナー (G. Gassener) によって発見されました. ガスナーは, 秋まき型冬ライムギの種子を低温 (1 〜 2 ℃) で発芽させて春に植えると, 春まき型ライムギと同様に出穂することに気づきました. これはつまり, 生育初期の低温が, 秋まき型冬ライムギの正常な出穂に必要だということです. その後, ルイセンコ (T.D. Lysenko) らによって追試され, 農業生産への種子の低温発芽の利用がはかられ, この方法が春化と呼ばれるようになりました.

春化処理に有効な温度範囲は -5 ℃ 〜 15 ℃ 程度. 最も効果が高い温度帯は, 0 〜 5 ℃ です.

低温の効果は, 低温にあった直後に高温 (30 ℃ 程度) に遭遇すると失われます. これを脱春化と言います.

春化のタイプ

種子春化と緑植物春化

春化には, 低温に感応する生育段階によって分類が次の通り 2 つあります.

  • 種子春化 (seed vernalization)・・・吸水したばかりの種子段階から低温感応する場合
  • 緑植物春化 (green plant vernalization)・・・植物がある一定の大きさになってから低温感応する場合. 低温に感応できない生育相がある

後作用型と直接作用型

さらに, 低温遭遇と花芽分化のタイミングによっても, 2 つに分類されます. 後作用型と直接作用型です.

  • 直接作用型・・・低温にあったのちいに有効限界以上の温度 (15 〜 20 ℃ 程度) に移されると花芽分化が始まって, 開花するタイプです. つまり, 低温刺激の後作用 (after-effect) として花芽分化するものです. なお, 厳密な意味での春化は, この後作用型の春化を指します.
  • 直接作用型・・・ある限界温度以下の温度 (低温) が直接的に花芽誘導するタイプです. 直接作用型の場合, 限界温度以下で花芽分化が始まっても, 花芽文化の初期段階で限界温度以上になると花芽の分化・発達が進まなくなって, 座死することもあります. 花成誘導効果の高い温度は 5 〜 10 ℃ で, 後作用型よりも高めです.

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春化のメカニズム

春化はエピジェネティクス現象

春化はエピジェネティクス (epigenetics) 現象です. エピジェネティクスとは, DNA 配列の変化によらない, 細胞分裂を通じた安定的な遺伝子発現制御機構のことを言います. エピジェネティクスは, ヒストンの化学的修飾や DNA のメチル化, 非翻訳 RNA などによって制御されています.

春化で低温要求を満たした状態は, 体細胞分裂を通して分裂組織の細胞に記憶されているという点で, エピジェネティクスだと言えます. つまり, 春化で獲得した形質は次世代には伝わない, 一世代限りの形質です.

花成抑制因子の発現調節

春化は, 花成抑制因子の発現調節機構が鍵です. シロイヌナズナでは, MADS ボックス遺伝子ファミリーに属する転写因子, FLOWERING LOCUS (FLC) が鍵になっています.

  •  MADS ボックス遺伝子・・・初期に知られた遺伝子の頭文字にちなんだ, 「MADS ボックス」とよばれる保存された約 60 個のアミノ酸配列を持っています.「ABC  モデル」で知られる花器官形成のホメオティック遺伝子など, 植物のさまざまな発生過程に関わる遺伝子です.

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FLC 遺伝子産物は, フロリゲンをコードする FT 遺伝子と, 花成シグナルを統合する因子の 1 つである SUPRESSOR OF OVEREXPRESSION OF CO 1 (SOC1) 遺伝子の発現を抑制することで, 花成を抑制しています.

  • 遺伝子産物・・・ mRNA から翻訳されるタンパク質と, 遺伝子から転写される機能性 RNA の総称

発芽後, 低温に遭遇していない植物は, FLC 遺伝子の発現は高いのですが, 低温に遭遇することで FLC 遺伝子の発現が抑制されて, 花成が促進されるのです.

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参考文献


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