高知と農業、あと哲学とか

農業のこと, 高知のことなどなど. ゆるゆる更新する雑記ブログ. 英語でも書くよ / About Kochi, Agriculture etc. Sometimes written in English

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雑種強勢育種法 (育種学を学ぶためのノート (7))

本記事は, 植物育種学を学ぶために作成したノートを, ブログ用に編集したものです.

前回はコチラ.

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雑種強勢の原理

雑種強勢の定義

  • 収量, 各種ストレス耐性, 成分含有量などにおいて, 雑種一代がいずれの親系統よりも優れていることを雑種強勢 (ヘテロシス heterosis (hybrid vigor) ) と呼ぶ
自殖弱勢の原因
  • 動物をふくめた他殖性生物において, 自殖 (近交) 弱勢と雑種強勢は表裏の関係としてとらえられる
  • 他殖性植物における自殖弱勢の主な原因は, 致死遺伝子や奇形遺伝子などの劣性の有害遺伝子が, 自殖あるいは同系交配によってホモ化し, 劣悪形質を発現することにあるとみられる
雑種強勢の量的な表現
  • 雑種強勢の程度を量的に表現する場合には, 両親の平均値 (mid parent, MP) に対する F1 の比 ( F1 /MP ) を用いる場合が多い
  • 実用的には優れた親よりも勝っていなければ意味がないので, 優れた方の親 (better parent, BP) に対する比 ( F1/BP) を用いる方がよい

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BP と超優性
  • 一対の遺伝子に支配される単一の形質では, 遺伝子が完全優性でも F1 = BP で, F1 が BP を超えるためには超優性を示さなければならない
  • 超優性・・・ヘテロ Aa の値が優性ホモ型 AA の値より大きいこと. 遺伝学的にはありえない (否定されている) 
F1 品種と耐病性
  • 優性遺伝子に支配される事例の多い耐病性の場合は, F1 が抵抗性となるので, 多数の病害に対する抵抗性遺伝子を集積するために F1 品種が用いられる.
  • つまり, 自殖性作物の交雑育種法で 2 個の耐病性遺伝子を集積した固定系統は後代の 1/4 ( F2 では 1/16 ), 同じく 3 個を集積した系統は 1/8 (F2 では 1/64) しか現れないが, F1 品種では両親のもつ優性抵抗性遺伝子がすべて発現する
  • このように多数の優性遺伝子を短期間で集積させるには F1 の利用が極めて有効である
耐病性についての補足
  • 病気の種類の多い野菜などでは, 多くの病害の多数のレースに対する抵抗性遺伝子を集積しなければならず, 通常の育種方法では大きな困難がともなう
  • 抵抗性遺伝子の多くが優性なので F1 雑種を利用すると多数の抵抗性遺伝子を集積することが容易である
  • たとえば両親品種から 3 個ずつの抵抗性遺伝子を導入しようとする場合, 通常の育種法では 6 個の遺伝子を集積した同型接合体は F2 では 1/4^6 すなわち 0.02 %, 充分に自殖を繰り返した後代でも 1/2^6 すなわち 1.6 %しか出現しないが, F1 雑種では 6 対の優性遺伝子のすべてが発現する
雑種強勢の期待
  • 雑種強勢は, 両親から異なる遺伝子が集まることによって起こる
  • 一般に極めて近縁の品種間では共通の遺伝子が多いために雑種強勢は小さく, また, 交雑不稔や交雑弱勢などの雑種崩壊 (hybrid breakdown) を起こすほど遠縁の品種間でも雑種強勢は期待できないとみられている

組み合わせ能力

  • それぞれの品種を交雑して F1 を作ったときに, その F1 が示す雑種強勢の程度によって組み合わせ能力を評価する
  • 組み合わせ能力には, 一般組み合わせ能力と特定組み合わせ能力がある
  • 一般組み合わせ能力・・・多数の交雑組み合わせを評価した場合, ある自殖 (近交系統) が示す平均的な組み合わせ能力
  • 特定組み合わせ能力・・・特定の組み合わせで現れる雑種強勢の程度
組み合わせ能力の検定 (1) 単交雑
  • 特定の自殖系統の間で交雑した F1 の能力を検定する方法
  • 多数の単交雑を検定することによってそれぞれの組み合わせ能力を相対的に評価できる
組み合わせ能力の検定 (2) トップ交雑
  • 他殖性作物で利用される
  • 自殖系統を, 放任受粉品種, 複交雑品種, 合成品種などの多型的な材料と交雑してその F1 の能力を検定する
  • 検定交雑の相手方はさまざまな遺伝子型を含んでいるので, 検定すべき自殖系統の一般組み合わせ能力を評価することができる
組み合わせ能力の検定 (3) 総当たり交雑
  • 検定すべき n 個の自殖系統の間で総当たり交雑を行う
  • n^2-n 組み合わせの F1 と n 個の親系統を養成し (細胞質の効果を想定しない場合は正逆交雑を行わず, 片側交雑だけでよい), その特性をダイアレル分析する
  • 一般組み合わせ能力と特定組み合わせ能力を同時に評価することができる

複交雑品種

  • 最初の交雑から数えると, 雑種第 2 代に相当し, 一種の雑種集団である
  • A × B の F1 と, C × D の F1 を交雑する
  • 複交雑では父本として利用される C×D の F1 に実った種子が通常の生産物として販売できるので, 種子のコストは三系交雑よりも低下する
  • 圃場では, Heterozygous (異型接合型, Aa) Heterogeneous (個体間で遺伝子型が異なる) に当たる

他殖性作物の雑種強勢育種法

自殖 (近交) 系統間交雑 

  • 組み合わせ能力を高め, かつ,F1 品種の均質性を高めるには, 交雑親が固定系統であることが望ましい
  • 人為的な自殖あるいは近親交配によって近親交配系統 (近交系) を作り, その系統間の交雑によってF1 品種を育成する
  • 組み合わせ能力の高い優良な自殖 (近交) 系統が育成されると, それらの間の交雑によって F1 を採種し, 一般栽培に普及する
  • これらの交雑において, 母本となる系統は人為的に除雄するか, 雄性不稔性あるいは自家不和合性を利用して自殖を防がなければならない
  • 種子作物において細胞質雄性不稔性を利用する場合は, 組み合わせ能力の高い系統の一方に細胞質雄性不稔遺伝子をもたせ, もう一方には稔性回復遺伝子をもたせなければならない
  • たとえば, 三系交雑系あるいは複交雑において A × B の F1 は雄性不稔でなければならないので, A には細胞質優勢不稔系統を用い, B にはそれと組み合わせ能力の高い維持系統を用いなければならない
  • 自家不和合性を利用する場合も, 不和合性の遺伝子型が異なり, かつ組み合わせ能力の高い系統を育成しておかなければならない
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(武田 1993 より)

F1 品種を純系品種と比較した場合の利点・欠点

利点
  • 生育旺盛
  • 多収
  • 病害抵抗性遺伝子などの有用な優性遺伝子を 1 つの F1 へ集積することが容易である
  • 放任受粉品種と比べると, 次のような利点がある (1) 個体間に遺伝的変異がない (Heterozygous だが, Homogeneous), (2) 果菜類葉菜類の玉揃いや, 品質が揃い易い
欠点
  • 交雑して F1 種子を生産するのに手数がかかる
  • 種子の単価が高い. 毎年, 種苗会社から種子を購入しなければならない
  • 2 つの親系統 (自殖系統) を維持しなければならない

F1 品種の育種における雄性不稔

  • 配偶体的雄性不稔 Gametophytic male sterility ・・・花粉 (n) の遺伝子型によって花粉が不稔になる
  • 胞子体的雄性不稔 Sporopytic male sterility ・・・植物体 (2n) の遺伝子型によって花粉が不稔になる

細胞質雄性不稔の利用による F1 品種の例

  • テンサイ, ニンジン, タマネギ, イネ (胞子体的雄性不稔でなければならない)
  • しかし, トマト, メロンなどの F1 品種は, 人手による除雄, 交配 (ナス科やウリ科の果菜類では, 1 花の交配で得られる種子数が多いため)

TMGS 系統 (2 系統法の種子親)

  • 出穂の 20 日前の前後において, 日平均気温が 23 〜 27 ℃ (系統間差あり) 以上で不稔になる
  • 関与遺伝子は劣勢なので, F1 の花粉稔性は正常である. PGMS 系統は, 長日と高温の組み合わせで不稔になる

合成品種

  • 組み合わせ能力について選抜された多数の系統間の相互交雑によって育成され, 放任受粉にによって維持されている品種
  • 合成品種の雑種強勢は, 第一代 F1 において最大で, 放任受粉した第 2 代では同系交配が起こるために雑種強勢が低下する
  • 合成品種を構成する親系統が充分多い場合は, ハーディ・ワインベルク平衡が働き, 集団の異形接合型は F2 以降一定になる (雑種強勢は低下しない)
  • 現在, 合成品種は主に牧草で利用されている (交雑の容易な種子作物では合成品種の利用は少ない)

自殖性作物の雑種強勢育種法

  • 自殖性作物では, 花器の構造や開花習性が自殖に適合しているために, 雄性不稔性が利用できるようになっても, 交雑種子を大量に作ることは困難な場合が多い
  • 自殖性作物の花器の特徴 (他殖性植物と比較して)・・・(1) 開花受粉の傾向が強く, 開花したとしても開花時間が短い, (2) 葯が小さく花当たりの花粉数が少ない, (3) 柱頭が一般的に小型で, 花粉をとらえ難い, (4) 花粉の寿命が短い
  • 自殖性植物の他殖率を高めるには, これらの諸特性を他殖向きに変更しなければならない

参考文献

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