高知と農業、あと哲学とか

農業のこと, 高知のことなどなど. ゆるゆる更新する雑記ブログ. 英語でも書くよ / About Kochi, Agriculture etc. Sometimes written in English

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哲学史におけるミソジニー

大学の集中講義で,「男女共同参画」について学ぶ機会がありました. 集中講義はいわゆる「オムニバス形式」で, 各回ごとに担当講師が変わるもの. そのうちの 1 つに哲学と男女共同参画というテーマがあり, 興味深かったので, そのノートを記事として公開します.

哲学からみる男女共同参画

  • 「生物学的性 sex と, 文化的性 gender」との絡まり合いを見出し, そこから認識の変革をうながす
  • 「女だから, 女らしくせよ」「男だから, 男らしくせよ」という言明は,「存在 ( 事実命題 )」から「当為「〜すべし」( 価値命題 )」を導き出す自然主義的誤謬 ( G. E. Moore ).

日本哲学会会員比率

  • 男性 92 % : 女性 8 % ( 2006 年日本哲学会 アンケート )
  • 女性「女性が活動しにくい学会体質」「女性は哲学に向かないという偏見」「教育環境」「職場環境」
  • 男性「女性研究者自身の自由選択」「教育環境」「家庭環境」「職場環境」
  • 「女性が哲学研究することの困難さ」が, 内実の見えない男性からは,「女性の自由選択」に見えてしまう

ミソジニー misogyny ( 女性嫌い )

  • 「男性および男性らしさを中心におくことによって, 女性および女性らしさを侮辱する過程」

男性が女性を排除する過程

  • 女性に「女性らしくある」ことを強制する. しかし,「女性らしくあること」を評価せず, 貶める
  • 「女性らしくあること」は 多様な歴史・社会・文化のなかで変遷してきた
  • 女性らしさに従った方が, スムーズに世間を渡ることができるので, 女性自ら「女性らしさ」に従おうとする
  • 女性を「女性らしさ」で縛り, 男性を社会・文化の主流におく

女性らしさを女性自身が嫌う過程

運命付けられた女性らしさを女性自身が嫌う
  • 主流・規範である男性が, 「女性らしさ」に従う劣位・弱い者である女性を, 排除するあるいは「女性らしくあれ!」と指示することで, 貶める.
  • 「女性らしさ」に従う女性は, 美醜・老若・従順さという男性の尺度で測られる
  • 「女性らしさ」に従わない女性は, 嫌悪の対象とされる
  • *女性はミソジニーの構造内部にあるので, ミソジニーから逃れることはできない
女性自身を反目させる ( ケイト・シュミット『性の政治学』)
  • 家父長制の大きな作用は, 女性同士を反目させること
  • 過去・・・娼婦 vs 家庭婦人
  • 現在・・・キャリアウーマン vs 主婦
  • 権威である男性は, ダブルスタンダードにつけこみ両方の世界に関与し, 女たちを張り合わせる ( cf. アグネス論争, 負け犬論争 )
  • 女性たちの副次的な階級・・・美醜・年齢

ケイト・ミレット『性の政治学』

ミソジニーの構造

  • 男性 = 強いもの, 理性的, 論理的
  • 女性 = 弱いもの, 感性的, 自然的
 

ミソジニーにおける「女性 = 自然」とされる考え方

  • 宗教の影響 ・・・ 女性はあらゆる生命を生み出すもの, 母なるもの
  • 理性/自然の区分・・・近世以降, 哲学では男女は能力によって区別されるのではなく, 身体・性格といった「自然」によって区別される
  • 生物学的・・・女性であることは生まれながらに定められたものとして, 自然である

理性/自然の区分

ルソー ( 1712 - 1778, 仏 )『エミール』( 1762 )
  • 西欧 18 C 後半. 身体的性差に基づくジェンダーをめぐる議論が活発となった
  • 男女の性差
-身体的機能: 女性が子を産む
-習俗: 女性が子を育てる
-女性の職分=母であること
  • 男性・・・真理の探究, 観念の一般化
  • 女性・・・実践に関わる
  • ルソー「彼女の栄光は夫の敬意のうちにある. 彼女の楽しみは家族の幸福のうちにある」「女子教育は学問を身につけて出しゃばることによって, 女性の価値は下がる」「才女ぶった妻はその夫の, その子どもたちの, その友人たちの, その召使いたちの, すべての人間の禍である」
  • J・ヒューズによるルソー批判・・・ルソーの女子教育の計画は, 女性を幼稚にとどまらせ, 自律させない
カント
  • ルソーの影響を受ける
  • 女性の徳は「美しい徳」( 感覚する ), 男性の徳は「高貴な徳」( 推理する, 道徳的必然性に関わる ) (『美と崇高の感情に関する観察』)
  • カントにおけるミソジニー的考え方「女性を学問へ唆すは, 男性が「決定的な優位」にあるのをみるという「有利な立場」に立つための「悪意ある策略」
  • 参考: エミリー・デュ・シャトレ https://ja.wikipedia.org/wiki/エミリー・デュ・シャトレ

 ミソジニーにおける「女性による女性の嫌悪」

  • 女性の身体性と結びついている
  • cf. 思春期の少女が大人の身体へ変化することを受け入れられず, 摂食障害へ陥る
  • 女性は, 「自分が評価されるのは身体に過ぎない」と思うようになってしまう
  • フェミニズムのジレンマ ・・・ 社会的地位を得るためには, 言っての美を追求せざるを得ない

フンボルト: 女性の身体形式が「女性らしさ」と結びつく ( 1767 - 1835, 独 )

  • 男性の美「形式の優位や技巧的な毅然さ」
-悟性を満足させる.
-美は人間性の 1 つの添え物
-想像力と悟性の統一には努力が必要
  • 女性の美「素材の自由な充実や相貌の愛らしさ」= 身体性
-感情を満足させる
-美は女性の責務
-想像力と悟性は共同して統一をもたらす

女性性とは何か: 身体性と自然性

ルソー『新エロイーズ』

  • 主人公ジュリ
-「美しい魂」
-道徳的に優れた女性の理想の姿
-感覚や欲望を脱し, 世俗的な恋愛や結婚・楽しみを低次のもとみなして, 徳と信仰に従って生きる
  • ルソーの『新エロイーズ』は, ミソジニーから脱しているか
  • 美しい魂は, 一見, 女性が身体性や感性に貶められているミソジニーから脱しているようにみえる
  • しかし今度は,「女性 = 道徳性」という図式が成立している

J.S. ミル『女性の隷従』

  • 女性は男性よりも道徳的に善い」とされる通念
-「他人の支配下にある」女性や奴隷は,「主人に命令されて主人のためにする場合を除いてはめったに罪を犯さない」
-当時女性は自己決定する機会が少なかった. また, 女性は道徳的自己決定を行わないように教育されてきた」
  • ミル「女性は, 男性や規範に逆わらずに従順であることが理想とされてきた」
  • 女性が置かれてきた環境要因への配慮を指摘
-「女性が一般に無能力とされる」通念(男女間の精神的な相違は, すべて「教育と環境の相違による自然の結果にすぎない」)
-「女性は哲学・科学・芸術の操作能力がないとされる」通念(非常にまれな例外を除いて, 女性が哲学・科学・芸術においてその能力を試みられるようになってから3世代にも至ってない. したがって, 女性にはその能力を発揮する機会を与えられなかった)
  • 自然 = 通常行われていること.「女性に哲学・科学者が少ない」
  • 不自然 = 慣習的ではないこと.「女性は哲学・科学に向かない」

 J. バトラー ( 1956 -, アメリカ )

『自分自身を説明すること』

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  • 「われわれは二者間のやりとりを通じ, 規範に接点をもつが, 規範の社会的次元はいかなる二者間のやりとりをも条件づける」
  • 規範・・・集団のなかで, 成員が行為について, 何をすべきかについて共有する意識や, 基準.「〜すべし」.
  • 主体・・・自覚的に, 意志して行為する者
ヘーゲル精神現象学』における承認
  • 自分が経験する出会いによって確実に変容し, かつての私に戻ることができなくなるという変容を強調
  • 人が自分自身を知るのは, 自分の外部にある自分が作ったのではない規範から生じた媒介によってのみ
  • 主体は, 規範を超えた者としてではなく, 自分がどのような社会のなかでどのような者であるかを知り, 行動する者と捉えられる

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ジェンダーをほどく』

-インターセックス・・・男女の区別がつきにくい性の特徴をもって生まれる. 新生児の 2000 人に 1 人の割合と言われる. 多くは生まれて間もない頃に, 診断された性別への形成手術がなされる. 1990 年代から, 自己決定のプロセスが欠落した手術に, 自律の問題を掲げた当事者による運動が行われている.

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  •  マネー医師 ( ジョンズホプキンス大学 )
-子どもは, 生まれた時点では, 性心理的に中立である. したがって早期に対処することにより, 子どもの性をどちらにも作り替えることができる ( 1955 )
-インターセックスの新生児を診断し, 男児ならマイクロペニス形成手術. 女児なら膣形成手術
 

バトラーの理論

-生物学的性差も, 個体を 2 つの集団に分類し「オス」「メス」と命名し, そのなかから逸脱例を発見している
-最初から「女」「男」という実体があるわけではない.「オス」「メス」という言葉による命名によって集団が 2 分されている
-「女」「男」という区分は流動的である

まとめ

  • われわれは, 他者と接することによって, 自分という存在そのものが,「女性らしさ」「男性らしさ」という身体性や規範, 社会的関係性, ミソジニーという構造の内にあり, それを着脱できないことに苦しむ
  • しかし, バトラーによれば, 自己が解体されるときこそが, 自分自身を別の場所へ送り届けるチャンスである
  • 「女性であること」「男性であること」が社会や規範から与えられたものとして, 苦痛をともなう変容をなすところに, 自分自身と規範との関係性を再構築することができる

免責事項

担当講師名は執筆者の判断で非公開にしています. この記事内容に反対意見をもっている方が, 担当講師名をインターネットで検索することで, 不当な誤解を講師へ持つことを避けるためです. でもだいたいググれば分かる
  • この記事には, 執筆者の意見は含まれていません
  • 担当講師が教授したかった内容と, この記事の内容に違いがあった場合, その違いの責任は執筆者にあります.

 

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